きまぐれログ #7: 何者でもない

なんとなくモヤモヤしていてあらゆることに手が付かないので、最近考えていることについて書き散らす。 対して推敲はしないので、まとまりはないと思う。

中野のほうにあった HIP-HOP な公衆電話

随想

自分は人より興味が分散しがちでありつつ、かつ個々への興味が薄いタイプの人間なのかもしれない。無論、自分以外の人間の思考を完璧に理解することはできないので、他人の話しぶりからその思考の輪郭を捉えて比較しているに過ぎないのだが。

そして最近は、自分のこのような性質は、専門家や研究者としての大成を目指すのであれば不都合なのではないかと感じている。これは偏に自分の人生が有限だからである。

まず、物事を知るのには時間がかかるし、物事を考えるのにも時間がかかる。決して全てを知ることはできないし、全ての答えに到達することはできない。知るために時間をかけた事柄のみを知り、考えるために時間をかけた事柄に関してのみ結論が得られる。

ここで、ある領域における専門家・研究者というのが「その領域の物事をよく知っている人」と定義されるならば、専門家を目指すためには同領域の知識を得ることに集中できる状態が望ましい。あるいは知識の有無や深さに加え、「持つ知識を運用して新たな知見を生み出している人」というような条件1を足した人間を専門家・研究者と定義するなら、さらに同領域に集中できる状態が好ましい。どちらの定義にせよ、興味が分散することや、1 つのことを突き詰める気概が薄いというのは、好ましくない性質だろう。

逆に、自分のような性質の人間は、およそ「器用貧乏」という言葉で評することができると思う。そして興味の薄さから、自ら思考の海に潜り新しい知見を生むという尊い活動を面倒がっている自分は、せいぜい評論家止まりだ。

これらはどれも個人的にあまり好みでないタイプの人物像だが、自分の性質を変えるのは難しいから、むしろ器用貧乏な自分をどう活かすかを考えるべきだと思う。何一つとして特技や専門領域を持たない凡人ではあるが、大域的な興味を維持できるという自分の性質は、うまくレバレッジをかけて使えるはずだ。しかし、どういう組織の、どういうチームの、どのポジションだと、自分が活かせるんだろうか。最近はこの問いが頭をグルグルしている。

最近書いた記事でも述べた通り、別に誰かと競う必要はないと思っていて、自分が納得できる自分でいられるならそれでよい。しかし、今の自分は自分の性質を上手く活かせていない。器用貧乏ですらなく、何者でもないのだ。そんな自分に焦りと苛立ちを覚えている。

日本語ラップ

ちょうど昨日 GAGLE の新曲『I feel, I will』がリリースされていた。

この曲は今年のバレンタインごろに起こった先日の福島県沖地震を入り口としている。 10 年という月日が経つことでしっかりと過去になってしまった東北大震災当時の日々を、先日の出来事をきっかけに改めて目前に認め、まさに「Earth beats under my feet」であることを実感するのである。そして、この実感が「不安と幻想の境目」を「不用意に暮らしてる」自分たちへの自省を生み、最終的に「生涯をかけ この声を残す」という決意につながっている。

GAGLE は震災真っ最中にも 『うぶこえ(See the light of day)』 という曲を出している。この曲は当時を生きる人々を鼓舞する 1 曲だったと思う(日本語ラップを対して知らなかった当時の自分でも一度聴いたことがある)。これと同じように、今作『I feel, I will』は、あれから 10 年語の今を生きるリスナーを改めて鼓舞してくれる。当時よりも落ち着いている(あるいは否が応でも落ち着いてしまった)今だからこそ力強く響く、足腰のしっかりした 1 曲だ。

また、最近 MV がリリースされた曲の中だと、般若 feat. Benjazzy, MACCHO の新曲『土砂降りでも Remix』もよかった。

冒頭の般若さんのバースには、あくまで過去や実績に固執しないスタンスで走り抜けるスピード感がある。 またバースの締めの雨合羽のラインは、KREVA の『Rain Dance』での名ラインを思わせる。こういうのいいな。

続く Benjazzy さんは相変わらずラップが巧い。声の使い分けが ill な感じ。「10 年越しの夢を叶えてる今がそう」という 1 フレーズも世代の連なりを感じさせる。日本語ラップがメインストリームに近づきつつあるこの時代を生きる若手だからこそのリリックだと思った。

そして MACCHO さんの自省的なラストバースには激しく心を引き込まれる。「ノロマ走れず止まれず歩く怖気ずく足 歴史 14 から 42 のわりに少ない作品」というラインが力強い。ここでは産みの苦しみ、長いキャリアを振り返ってみたときの虚無感、そして逃げ場のない人生を生きる不安感が隠すことなく表現されているように思う。このリリックはあの大天才 MACCHO さんが書いて歌うからこそ響く。まさに名曲『Beats & Rhyme』の「どの口が何言うかが肝心」というパンチラインの通りだ。

ただひたすらに将来だけ見据えて走る様子を描写する般若さんのバース、今この時を駆ける中での葛藤を吐露する Benjazzy さんのバース、そして過去のしがらみを抱えて自虐的な思考の中でもがく MACCHO さんのバース。三者三様の人生観が垣間見える作品だなと思う。

その他、今週 dig っていた曲の中だと『かんぐり大作戦』が好きだった。

強弱のあるビートの上だからこそ器用にうねる BES さんのフローが光っている。すげー。

  1. 「Publish or Perish」とはよく言ったものだ。最近この言葉がよく身に染みる。個人的には、新しい知見を生めていて、かつそれを書き残せている人間が専門家や研究者と呼ばれるべきであり、それ以外はせいぜい好事家と呼ばれるべきだと思っている。 

Written on March 9, 2021