きまぐれログ #5: 既知の道

今日『花束みたいな恋をした』という映画を観た。 それで少し感情が刺激されたので、ぼんやりと頭の中にあることを、勢いで書き出す。

JR吉祥寺駅公園口側の吉祥寺パークロード商店会

随想

建物の配置や特徴を諳んじられる程度にはよく見知っている道を用もなく歩き直して、そこで得られる視覚や聴覚への懐かしい刺激を改めて咀嚼していく、という時間ほど尊いものはないと思う。 端的に表すなら、僕は、見知った道を歩き直すのが大好きだ。

吉祥寺から三鷹寮までの経路は好きな道の一つだ1。 京王井の頭線の改札を抜け、南側の出口、パークロード商店会に出る。 まっすぐ進むと “0101” の看板2につきあたる。 そこから右に切り返し、いせや総本店の焼き鳥の香りに心を奪われながらも歩みを進め、小田急バスの路線沿いをてくてく歩く。ジブリの森美術館が見える。昆虫館が見える。大学のキャンパスが見える。 そうして最後に、上京したての頃に住んでいた三鷹寮にたどり着く。

山手通り(の一部)なんかも色んな思い出のある道だし、大江戸線沿いのとある区間も好きだ。 新型コロナウイルス感染症が社会を大きく変えてからは一度も歩けていないけれど。

こういう見知った道を歩き直すのが好きなのは、この前書いた話よろしく、道を歩き直すことで、過去の自分を見つめ直すことができる気がするからだ。 特に人生に閉塞感を感じたときには、一度先述のような道を歩き直してみることにしている。

例えば、道中のランドマークを目にしたり、通り沿いの個人商店から流れ出る音を耳にしたりすると、当時の悩みごとが甦ってきたりする。 昔から僕は、その時々の悩みごとを頭の中で巡らせながら歩くきらいがあるから、多少そういう感覚への入力と思い出がリンクしがちなんだとは思う。 先の吉祥寺から三鷹寮までの道中だと、井の頭公園が見え隠れするあたりにあるベンチを見れば、あの冬は日高さんの『Stray Cat』を聞きながら、ある方との諍い(当時の僕の幼さが招いた問題だった)に頭を抱えていたな、なんてことを思い出す。

その他、よく同級生と歩いていた道を歩けば、そのとき大学で勉強していたことや挑戦していたことが思い浮かぶ。 昔恋人とよく歩いた道には、若干ぎこちない歩幅の足跡がうっすらと残っている気がして、ほんのりと苦みを覚える。 道に色濃く充満する気配は、いつも、当時の自分のありかたを教えてくれる。

つまり僕にとって旧知の道を歩くという行為は、自分の過去を掘り起こしていく操作であり、「当時自分はどうあったか」という客観視のタネを得るための操作である。どうしても渦中では客観視できない出来事はあるものだから、こういうタネは貴重だなあ、と思う。だからこそ、なじみの道を歩き直す、というのが好きなのだ。

……ところで、わざわざこんなことを書きたくなったのは、今日観た 『花束みたいな恋をした』という映画が、道と思い出を強くリンクさせるような描写を多分に含んでいたからだ。終電を逃した麦(菅田将暉)と絹(有村架純)が歩く明大前から調布までの甲州街道や、調布駅から彼らの家までの多摩川沿いの道などでのシーンがその代表例である。もちろん似たような道に仮託した描写は、他の映画や小説でもよく見かけるものだ。しかし、個人的には『花束みたいな恋をした』の描写が最も写実的に感じたし、僕には絶妙に刺さった3。 おすすめの作品なので、ぜひ一度観てみてほしい。僕は折をみて再度観ようと思っている。

日本語ラップ

今週のチューンは PSG の『いいんじゃない』だった。PUNPEE のバースの「自分のことなんだし自分で決めたら?」からの一連の流れから、フックまでの接続が、本当に絶妙なのよ。

あと今週は KID FRESINO さんと JJJ さんの『Way Too Nice』とかもよく聴いていた。 個人的には響きのために表現を英語に逃したりせず、日本語表現の範囲で頑張っているラップの方が好みなのだけれど、この曲は(Fla$hBackSの文脈も含めて聴くと)今の自分には絶妙に刺さる。特に JJJ さんのバースは巧い。

その他、THA BLUE HERB の『STILLING, STILL DREAMING』をスーパーに買い出しに行く時に聴いている。寒い冬の夜は BOSS THE MC のスピットが胸に響く。あと、BADHOP から出た『Chopstick』っていう曲の Benjazzy さんのバースが好きだった(リリックはさておき)。

  1. 吉祥寺からの経路に関しては、当時の風景や風通りの具合、水はけの癖、途中の建物の造形なんかを、今でも思い出せる程度には好きなんだよなあ。 

  2. “65” と書いてくれたほうがクスッと笑えて素敵なのにな。 

  3. その映画に関しては、それ以外もうまく言語化したいような要素がてんこ盛りだったのだが、それはまた今度書く。 

Written on February 11, 2021