きまぐれログ #3: 書籍製作の振り返り

2021/01/05(火)が発売が開始された、『Web ブラウザセキュリティ ― Webアプリケーションの安全性を支える仕組みを整理する』 という書籍についての裏話をつらつらと書き綴ります。 きまぐれログ #1きまぐれログ #2 と同様に、ポエム成分マシマシで書いたものです。 興味があればどうぞ。

書籍の外観とすみっこぐらし

本を書くに至った経緯

かつてセキュリティ・キャンプ全国大会 2019 に講師としてお招きいただいたときに、事前学習資料として数十ページのテキストを作成しました。 『Webブラウザセキュリティ』は、ここで用意したテキストがベースとなっています。

この事前学習資料は、#websecjp: 体系的に学ぶモダン Web セキュリティ という自主開催の勉強会や、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)様にお声がけいただいて開催したワークショップなどでも利用していました。 これらのイベントでの反応を通して、「このテキストはせっかくなら書籍とした方がよいのでは」という気持ちを持つようになりました。

そんな中、先述の websecjp という勉強会にて、ある方が「書籍にしたらどう?出版社を紹介するよ」という声をかけてくださいました。 それに二つ返事で応じ、引き合わせていただいたのが、出版社の ラムダノート さんでした。

そこからは 2019 年の年末頃に本郷某所でキックオフ的な打ち合わせをした後、オンラインで原稿のやりとりを重ねつつ、今に至る、というのがここまでの流れです。 事前学習資料の作成に着手したあたりから数えると、1 年と半年くらい、この本に取り組んでいたということになります。 時が過ぎるのは早いものです。

いま本を書いた理由

この期に及んで技術書を書いた主目的は、Webブラウザに関連した様々なセキュリティに関する思想や仕組みを学習するためのハードルを下げることでした。 私が知っていることを書き出すことで、他の誰かがより速やかに本質的な問題に挑戦できるようになるなら、私が書いておくに越したことはありません。

また、今までの取り組みを整理することで、新しいことに軸足をずらしていくための節目を作りたい、という気持ちもありました。 もちろん一つの領域で専門性を高め、自分にしかできない仕事をしていく、という働き方への憧憬は持ち合わせています。 しかし、これまでの生活を振り返ると、どうやら私は広くものを見渡すような頭の使い方のほうが得意なようなのです。 せっかく過去の自分の思考や取り組みを吐き出した一冊が作れたのですから、これからは、かつてよりも新しいことに挑戦していこうと思っています。

書いてみてよかったこと

なにより、「本を一冊つくる」という体験そのものが、何にも代えがたいものでした。

第一に、ペンを持つことで自分の無力さを知れたこと。これは非常に価値のある体験でした。 ひとたび机に向かって文章を書きはじめると、自分の知識の凹凸や、解像度の低さがすぐに分かります。 自分の手や頭は正直なものです。理解が曖昧なことに説明を与えようとすると、とたんに動かなくなります。 「本を書き上げねばならぬ」という緊張感のもと、未熟な自分と日々向き合うのは、非常にいい刺激をもたらしてくれました。

第二に、言葉を生業としている方々の仕事を間近で拝見できたこと。 これも商業誌だからこその体験でした。 拙著『Webブラウザセキュリティ』は、ラムダノートの鹿野さん、高尾さんによる編集をガツガツ受けています。 「もはや共著と言ってよいのでは」と思うくらいに沢山の素敵な編集を受けたのです。 お二人の力なくしては、本書は今のような素敵な形にはならなかっただろうと思います。 ほんとうに頭が上がりません。

出版前レビューについて

同時に、今回は、7 名の専門家の方がレビューにご協力してくださいました。 レビューでは(ありがたいことに)尋常じゃない量のコメントを頂いたのですが、これのおかげで、原稿のクオリティを大分上げることができたと思います。 出版前の原稿を読んでいただくのは、やはり緊張するものですが、本当に出版前レビューを実施しておいてよかったです。 引き受けてくださった皆様には心から感謝しております。

ところで、出版前レビューで頂いたコメントの中では、以下の画像に示したものが記憶に最も強く残っています。 これはレビュー時の原稿に存在していた、'大吉', '中吉', '末吉', '小吉', '凶', '大凶' という文字列のリストが登場するサンプルコードに対するレビューコメントです。

おみくじについて議論するレビュワーのお二人

これ、これまでの22年間の人生で、ずうっと勘違いしていました。 恥ずかしい。

恩送り

ちゃんとした本を一冊書き上げることができたら絶対にやろうと思っていたのが、若者向けのプレゼント企画でした。 この企画の概要は 書籍『Webブラウザセキュリティ』を3名の若者にプレゼントします(→ しました) という記事でまとめられています。 それと母校にも献本ができたらと考えていたので、久々に恩師に連絡を取り、先日一冊送付しました。 自分はちっぽけな存在ですが、こうやって次の世代に何かを伝えていくことで、この先の世の中が少しでもよくなってくれたら嬉しいな、と思うのです(こんなことを書いていると、どうも『転がる岩、君に朝が降る』のミュージックビデオを思い出します)。

それと、この企画を通して、ほんとうに多くのお便りをいただきました。 体感では、合計 73 通の応募の中のおよそ半数くらいには、激励や質問、お悩み相談などが含まれていたように思います。 今週卒業論文を提出して、無事卒業できることが決まったらお返事を考えるので、もうしばらくお待ちください。

さいごに

とりとめのない文章になってしまった。もし興味を持ってくださった方がいたら、拙書『Web ブラウザセキュリティ ― Webアプリケーションの安全性を支える仕組みを整理する』、よければご一読ください。 Amazon.co.jp や各書店、出版社のラムダノート様の直販サイト などからご購入いただけます。直販サイトだと PDF がついてきて便利ですよ。

Written on January 25, 2021